棋士は食べることが好きだ。 とまあ主語を大きくしてしまったが、そもそも大半の人は食べることが好きだし、美味しいものとなれば嫌いな人の方が少ないだろう。もちろん先輩方の中には食通と呼ばれるような方もいらっしゃるが、ほとんどの棋士はまだその域には達していない。私のようなものに至っては、せいぜい食のミーハー、今風ならばにわかグルメとでも言ったところだろうか。 さて、そんなにわかグルメの私だが、美味しいものを食べたいという気持ちだけは旺盛である。そんなわけで今回のコラムは、数年前の私が遠征時に対局に勝ってホテルに戻り、人心地つけたところから始まる。 対局後というのは大抵の棋士が特殊な状態に陥っており、私の場合対局に勝った状態からしばらくは対局中と同じ緊張が続く。段々とアドレナリンが落ち着いてきて対局中の疲れだけが身に染みてくるのだが、頭は冴え渡ってしまって容易に眠りにもつけない。 そうなると段々と