ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから二年半、わたしの会社からは何人かがいなくなった。転職や定年退職はカウントしていない。職場を変えるのではなく、ただ辞めた人の数である。 このところ疫病の感染状況はまったくよろしくないのだが、それでも出社は増えた。あまりに長期間なので、弊社の経営陣は「ある程度のリモートワークを残し、リスクは承知で出社してもらって、それでやっていくしかない」と考えたようである。緊急対応というには、二年半はあまりに長い。 そうすると増えるのが立ち話である。新人や新しいクライアントについての情報交換、リモートワーク生活のこと、リモート対応で導入されたソフトウェアの感想、そして、いなくなった人の話。 いなくなった人のひとりはわたしの新人時代の指導役だった。 二十年前のことだから、今から考えるとハラスメントが横行していた。社員個人を「女は」と

    いなくなったあの人のこと - 傘をひらいて、空を
    Windfola
    Windfola 2022/08/31
  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を
    Windfola
    Windfola 2019/09/18
  • 「生んでくれてありがとう」 - 傘をひらいて、空を

    生んでくれてありがとう。 息子が言う。保育園の卒園式のことである。子どもたちがひとりひとり保護者にメッセージを伝える。なにぶん六歳だ。自分だけで考えたら、要領をえない、しどろもどろの、あるいは日常的な発話になる。でも式典はスケジュールが決まっているから子どもたちはひとことずつしか口にできない。順番に、滞りなく、全員が、みじかい決め台詞を言う。そういう場だから、文言はだいたい決まっている。「送り迎えしてくれてありがとう」というのがもっとも多い。その中でわたしの息子は「生んでくれてありがとう」と言った。 わたしは反射的に口を手で押さえる。その手をスライドさせて目の下と鼻と口を覆う。表情の細かい伝達を隠し、かつすごく感動しているように見える姿勢をつくる。隣のママ友が言う。まあ、なんてこと言ってくれる子かしら、こっちまで泣いちゃう。ほどなく園児たちはそれぞれの親のところへ行く。わたしはめいっぱい嬉

    「生んでくれてありがとう」 - 傘をひらいて、空を
    Windfola
    Windfola 2019/04/03
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