「優生学」はきわめて政治的な概念である。それは、「優生学」が二重の意味で価値判断を伴う境界設定を前提としているためである。 第一に、繁殖が望ましい人間とそうではない人間の区別。あるいは、出生が望ましい人間とそうではない人間の区別であり、基本的に特定の性質が子孫に伝達されることが望ましいか否かで判断される。ただし、それは必ずしも遺伝子を媒介とした伝達に限らない。「遺伝性」とみなされた性質(疾患、障害、犯罪性向、体質など)ばかりでなく、感染症(梅毒、ハンセン病など)、中毒(アルコール、麻薬など)、生育環境(貧困など)もまた、優生学における子孫の適否の判断基準となりえた。これらの身体的条件には、しばしば「人種差」や「階級差」が重ね合わされ、さらに社会防衛や医療・福祉コストあるいは人生の幸不幸の判断が勘案されて、選別の優先順位がつけられていった。また、一九六〇年代以降は出生前診断技術の普及によって