その日、私は駐在先企業のキャンティーンで、一人で昼食をたべていた。何年か前のことだ。回りにはボソボソと、聞き取りにくいフランス語の響きが満ちている。その中にふと英語の音が聞こえたので、つい耳を傾けてしまった。鋭角な英語の音は、仏語の靄の中を通り抜けてくる。ちょうど穏やかな満ち潮の入江に磯が屹立するように。話の雰囲気からすると、一人は英国人、もう一人は米国人らしい。お互いは知りあいではなく、たまたま出張先のこのフランス企業で顔を合わせたにすぎないようだった。 「近頃は、出張の待遇がきつくなったよな。忙しい日程で、疲れるよ。」 そう一方が言えば、他方も同調する。 「ああ。まったくこの頃のボスときたら、二言目には、Bottom line, bottom line, だ。金のことばかりで、技術のことは二の次だ。」 「うちもだよ。昔はこんなじゃなかったのにな・・。」 エンジニア同士の話は、どこの国で
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