村上春樹のエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』が電子化された。ウェブサイトの内容をまとめた『村上さんのところ』を別にすると、村上春樹の書籍が電子化されたのは初めてだ。 本書は村上春樹のマラソンに対する思いが綴られた本だが、同時に処女作『風の歌を聴け』を書いたきっかけや、長編小説を書く際の心構えなども語られている。 小説を書こうと思い立った日時はピンポイントで特定できる。1978年4月1日の午後一時半前後だ。その日、神宮球場の外野席で一人でビールを飲みながら野球を観戦していた。 マラソンについて語るときも、文体はいつもの調子だ。 筋肉は覚えの良い使役動物に似ている。注意深く段階的に負荷をかけていけば、筋肉はそれに耐えられるように自然に適応していく。「これだけの仕事をやってもらわなくては困るんだよ」と実例を示しながら繰り返して説得すれば、相手も「ようがす」とその要求に合わせて徐々
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