父は奇妙な人間だった。TV鑑定団に骨董品を出すと言ってはスーパーマーケットの皿を買って来たり、タバコを買ってくると言っては駄菓子のハッカタバコを買ってくるという人だった。その天然ぶりと珍妙さは折り紙付きであり、近所からも道端の湿ったコケ類の如き柔らかな中傷を浴びた。 ある時父は失踪した。まるで真冬の嵐に巻かれた雪景色の向こう側に消えるようにいなくなった父であったが、家族からも不思議と心配されることはなかった。母は変わり者の父のことだからきっとどこかで生きている、とのんきな様子でせんべいを頬張り、そうした様子で何年も過ごした。母がせんべいのことすら忘れる頃になると俺も成人になったのだが、どうにも父のことは今すぐそこにいるように感じられて仕方がない様子だった。そのように語る俺ですら、父が死んだという認識はない。父の失踪はまるで都市伝説のみたく脈々と受け継がれてゆくようにも感じられた。 ある日の