東日本大震災の発生直後から被災地で取材している。「被災者の姿を伝え切れているのか」。自身への問いかけは日増しに重みを増している。 ◇“ありのまま”を原点に、今後も 「ここはきれい事ばかりじゃない」。この1年、被災者から何度も聞いた言葉が胸に刺さっている。確かに、取材した被災地の大半は温かな絆にあふれていた。困難にもめげず支え合う被災者たちの姿を私は迷わず記事にしてきた。その一方で、震災で失われた絆もあった。「避難した親戚宅を追い出された」「救援物資を独り占めする人がいる」--。応援したい被災者の負の側面を伝える難しさに悩み、結局、ほとんど記事にできなかった。 「被災者のあらを取材して、一体、何の役に立つのか」。思考停止になりかけていたとき、ある被災者と再会し、失った絆に向き合うことの大切さを痛感した。 岩手県陸前高田市の菅野浩子さん(69)。震災4週間後に避難所で知り合った。いつも人なつこ