前回に続き『紫式部日記』を通して『源氏物語』の作者の千年前の思いのうち、私の心を波立たせてくれた彼女の吐息にふれます。 はじめの引用箇所は、この日記のなかで、彼女が自分自身を省みた思いを書き記されているところです。紫式部の日記を読むと、宮廷でのできごとを書く場合にでも、最後には自分自身にひきよせて考える、とても内省的な魅力ある女性ですが、その心をみつめる姿が浮び上がっています。考える前に、考えることなく、言葉を並べ立て、主義主張を押し通す人たちを敬遠し、言葉にするまえに深く考え、言葉をのみこんで考える、紫式部がいます。私も性格が似通っているので、彼女の思いがとてもわかる気がします。 どんどん口に吐き出すことに快感を感じる社交的な押しの強い人は弁論家や政治家向きですが、物語作者、歌人、詩人にはなれないと私は思います。彼女があの長大な美しい物語を織り上げ切った母体にはこのような、心の深さの方向