会社、女子大、PTA…あらゆる組織に『聖域』は普通にあるものらしい。それこそ空気のように。今、その聖域とやらが僕を悩ませている。2ヶ月前よりトップダウンで事業全体の責任者になり聖域なきリストラの断行を命じられている。ボスの言うことを信じるならば彼は社員を解雇したことがない。「社員は会社の財産」が口癖のボスは、目を付けた社員を間接的にいたぶり自分から辞めていくように仕向けていく心優しい人だ。ビバ自己都合退職!嫌われたくないから己の手で部下の首を切りたくない。されど会社はヤバい。ならば適当な外様に返り血を浴びる汚れ役を任せればよいではないか。そこで登用されたのが僕だ。おかげで僕は同族企業でリストラを行うことの難しさに直面し頭を抱える日々を送っている。よくよく考えてみれば「聖域なき」というフレーズは矛盾している。なぜなら、すでに聖域の存在を前提にしているからだ。聖域がないのなら「聖域なき」という