あるときから「忖度」という言葉は悪しきもの、忌むべきものとして用いられるようになった。しかし、本来は「他者の心情を推し量り、配慮する」ことを指す。それはさまざまな人と関わりながら仕事をし、生活を営む我々の社会においては大事な素養の一つであり、程度の差はあれ、多くの人が何かしらの忖度をしながらそれぞれのコミュニティを立ち回っているのではないだろうか。 今回お話を伺うのは、執事の新井直之さん。世界中の資産家やビジネスエリートを顧客に持つ、プロフェッショナルだ。一流のサービスを受けることに慣れたVIPに対し、それを上回る仕事で信頼を得てきた新井さん。そのおもてなしの根底にある、「忖度の力」について聞いた。 ── まず、執事とは具体的にどんなことをする仕事なのでしょうか? 新井さん(以下、敬称略):おそらく、みなさんがドラマや映画でご覧になっている執事のイメージというのは、お仕えする方にお食事を出