本コラムの筆者・福嶋聡氏は、40年近くにわたり、書店の棚を通じて言論や時代の変化を見続けてきた。そこからは、いくつもの著書も生まれた。書店の棚にはどんな役割があるのか、書店員は何ができるのか。その自問自答から導きだされた帰結が「書店は言論のアリーナである」だった。「言論のアリーナ」の40年を振り返り、本や書店の果たしてきた役割を見つめなおし、「これからの本と書店」を考える。 「ヘイト本を返品できるか」という自問 はじまりは「苦し紛れの理屈」だった。 人がある主張を掲げ、それがその人の思想として認知されるほどに醸成されるには、他の人たちと何度も議論を重ね、自ら練り直していくための一定のプロセスが必要である。そのプロセスの時間的始まりは獏として定められぬ場合が多いが、ときに明確に日時を指定しうる場合もある。ぼくの「書店=言論のアリーナ」論は後者のケースであった。明確に「はじまりの日時」を指定で