今私の手元に一冊の絵本がある。『100万回生きたねこ』と題されたその絵本は1977年に出版 され、作者は佐野洋子(谷川俊太郎氏夫人)である。最初にこの絵本を手に取る人は、その奇妙な タイトルに興味を持つだろうし、私もたぶんその一人であったと思う。学生時代、北海道を旅行して いて、偶然泊まったユースホステルのミーティングは一冊の絵本の朗読だった。その時にペアレント さんの息子の朗読で読まれたのがこの絵本である。その不思議な読後感は旅の後半の私をしばし ば放心状態にした。京都の下宿に帰ってから、書店めぐりをしてその絵本を買い求めたのはいうま でもない。 その絵本の書き出しはこうである。 「100万年もしなないねこがいました。100万回もしんで、100万回も生きたのです。りっぱなと らねこでした。100万人のひとが、そのねこをかわいがり、100万人のひとが、そのねこがしんだ ときなきました