20 「ムーアのパラドックス」と論理 小口裕史 Ⅰ 「ムーアのパラドックス」と「主張の論理」 「ムーアのパラドックス」という呼称がウィトゲンシュタインによるものであることは よく知られている。そしてマルカムによれば、ウィトゲンシュタインは「自分に深い感銘 を与えたムーアの唯一の仕事は、 『雨が降っている、しかし私はそのことを信じていない』 というような文に含まれている特殊な種類の無意味さ(the peculiar kind of nonsense)の 発見である、とかつて論評した」という 1)。 「ムーアのパラドックス」は、ウィトゲンシュタインがムーア本人に宛てた手紙の中で 賞賛したように、 まさしく 「一つの発見 .. 」 であった。 それはムーアが 「主張の論理 .. (the logic of assertion)について重要なことを述べた」からであり、このパラドックスが「論理は論