宮沢賢治は「真の幸福に至れるのであれば、それまでの悲しみは、エピソードに過ぎない」と言った。だが、今を生きる僕らのほとんどは幸せに至る前のエピソードで死んでしまうのでないだろうか。「何ものにもなれなかった」が口癖の元同僚がいる。出会ったときは先輩だったが、別れるときは部下だった人。50代、バツイチ。彼の口から「何ものにもなれなかった」という台詞が出ると「何かを目指したことありますか?」「そもそも何ものって?」「挑戦してないのに後悔するポーズやめてください」と僕が詰問し、彼が「いじめるなよー」とヘラヘラするのがこれまでの飲みのパターンであった。 世間的に飲めるようになったので彼と飲んだ。駅前。チェーン居酒屋。再会に乾杯した直後「就職した会社がブラックでさ」と切り出す彼。就職していたらしい。またうだつのあがらない話を聞かされると憂鬱な気分になる。話を促すと彼は「手取り28万」「営業事務」「正社