内容の濃い本。これが新書であることが信じられないほどに内容が充実しており、日本におけるこれまでの教養主義の変遷がまとめられている。以前の日本の大学には、「読まなければならない本、というものがあった……」。何故、それらの本が読まれなければならなかったのか。その疑問に対する、解答の一つがここにある。 序章 教養主義が輝いたとき 筆者は学生時代の頃を回想しながら、本を読むことが至極当然のことであった当時の雰囲気を描き出している。夏目漱石の『こころ』の主人公のように本を抱えて田舎で読書をするというのが、筆者の夏休みの過ごし方だった。 ……閑静な田舎で、読書を含めてゆっくりと過ごすことができたことは、なんとも贅沢な時間と経験だった。いまにしてあらためておもう。こうした都会を離れる大学生の夏休みの「正しい」過ごし方が消えたのは、なんといってもクーラーの登場が大きい。多くのすぐれた書物を読むという夏休み