女性とは「謎」である 漱石は、執拗に謎を持った存在として女性を描いている。浪人時代に漱石の小説をはじめて集中的に読んだとき、そこに最も惹かれました。気恥ずかしい話ですが、当時手痛い失恋を経験していた私にとって、漱石の小説は自分の切実な関心と重なりあっていたんですね。 女性は謎である。これは何も漱石の独創ではなく、彼が生きた明治時代の教養ある男性一般が抱えていた問題でした。だから漱石が描いたのは、実は時代的な大きな背景があったことが、明治期の雑書を多く読むようになって、最近ようやく分かってきました。 江戸時代までは士農工商という身分の区別があり、移動の自由も極めて限られていたため、結婚となると家が決めた人か身近な人と一緒になるのがほとんどでしたが、明治時代に入ると、その身分制度が崩れ、男性が不特定多数の女性と接する機会が飛躍的に増えました。そうなると結婚や恋愛の自由や選択肢が広がり、女性に自