大人の友情 [著]河合隼雄[掲載]週刊朝日2008年3月28日増大号[評者]温水ゆかり■友とは死体を相談できる人なり 時々不安になる。自分には友達がいないんじゃないかと。著者は07年、惜しくも逝かれた(享年79)。 「友達がいないんですね」という言い方が、事実の指摘ではなく、ある種の人格非難だと気づいたのは、恥ずかしながらわりと最近のこと。露悪癖もあって、以後「友達がいない、いない」と吹いていたら、「私も」とか「俺も」などと言う人が続出する。別に淋しそうでもない。不思議だったが、本書を読んで腑に落ちた。曰く、夫婦、親子、きょうだい、上司と部下など、深まった人間関係の底には友情が働いているものだ、と。信ある所に友愛あり、ということか。 『走れメロス』や『こころ』、小林秀雄が中原中也の恋人を奪ったように「同一視」の形をとることがある男同士の友情、性愛から「卒業」した男女の友情など、文学から心理