今年55歳になりました。すでに子供は結婚して家を出ていますので、ふだんはベランダに置いてあるレモンの木に産みつけられたアゲハ蝶の幼虫の成長に一喜一憂するなど、穏やかな日々を過ごしています。「おひとりさま」として暮らしていると、当然のことながら「おはよう」「おやすみ」といったあいさつをする必要がありません。役者としてのお仕事の事務連絡も、今やLINEやメールで事足りますので、ふと気がつくと、誰ともしゃべっていない日が3日も続いていたこともあります。 ただその分、自分のこれまでとこれからについて立ち止まって考える余裕ができ、それまで見えなかったいろいろなものが見えるようにもなりました。そんな時、「本を書いてみませんか」というお誘いを受けました。担当編集の方からは「池上さんらしい書き方でいいんですよ」とおっしゃっていただき、(私らしさって何だろう)と考えつつ、まずは幼いころに住んでいた京都の思い