松本清張といえば言わずとしれた現代ミステリ小説の大家であり、『点と線』『張込み』などいわゆる「時刻表トリック」を多用した「トラベルミステリー」作品の開祖といわれることもある。しかし、JR全線を乗破した「乗り鉄」の元記者・赤塚隆二氏は、清張作品の魅力は“ミステリー”だけでなく、“トラベル”の面にもあると語る。 ここでは同氏の著書『清張鉄道1万3500キロ』(文藝春秋)より一部を抜粋。松本清張作品の多様な魅力について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む) ◆◆◆ 旅への誘い 「社会派ミステリー作家・松本清張」の登場を予告する重要な作品が登場する。刑事が容疑者を追う筋立ての第1号『張込み』である。55(昭和30)年12月の「小説新潮」に載った。 警視庁は、強盗殺人容疑者の石井久一が、故郷の山口県か、昔の恋人さだ子が後妻として嫁いだ九州のS市か、いずれかに立ち回ると見て、二刑事を西へ向かう列車に