ものおもへば 沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞみる 和泉式部 今日から七月です。夏がこれから本格的に始まろうとしていますが、平安時代の貴族たちは、言葉のうちで涼しさを感じとるということのうちに、喜びを見いだしてやまない人びとでした。けっして過ごしやすくはない季節だからこそ、あえて月や夜といったものについて語りつづけることで、まとわりついてくる暮らしにくさを、やんわりとかわそうとしたわけです。ヴァーチャルな領域にぞくする言葉の力がもつ重要性について、彼らはとても深い認識を持っていました。 彼らは、おそらく今の時代を生きている私たち以上に、恋愛の体験においても、言葉のやりとりを大切にしていました。彼らは、一度も見たことさえない相手に、手紙によって愛の告白を行うこともしばしばでした。平安の時代の貴族たちはそうやって、「恋は、わたしとあなたの関係にかかわるという以上に、わたしと言語の