とかく社会では、「逃げる」ことはよくないとされている。「現実逃避」といった言葉はほとんどの場合、ネガティブな意味合いでとらえられているが、実際のところ、これを完全に禁じられてしまったら、人生は息苦しくてしょうがないだろう。たとえば、日々ストレスフルな仕事をしている人が、映画を観て息抜きをしたり、旅に出て気持ちをリセットしたり、心のバランスをとるためには、ときには「逃げる」ことも大切になってくる。 そうした「逃げ」をあらためて肯定してくれるのが、『特に深刻な事情があるわけではないけれど私にはどうしても逃避が必要なのです』(山口路子/中経出版)だ。それにしても長いタイトルだ。これは、フランスの作家、フランソワーズ・サガンが当時のパートナーに宛てた書き置きから引用したもの。そこにはこう記されてあった。 「あなたへ。疲れました。疲労困憊。もう人に会うのも嫌になったので、ひとりで数日でかけてきます。