もし、大人になる瞬間というものがあるとしたら、それは進学や就職といった人生の節目を経過したときでも、異性とのホニャララを経験したときでもなく、「夏が長いやと感じたときではないか。その瞬間をいつの間にか越えていたことに、少しばかりの寂しさとともに、後で気付くのだ。先日、いつまでも夏が終わらないでほしいと祈っていた、あの頃の自分を思い出す出来事があった。梅雨明けを予感させる7月の午後の野球場。夏の高校野球県予選。グラウンド整備の合間、「そういえばホームランって打ったことないや」とスコアボードの上に広がる青い空を眺めていて、ふと、今はもういない一人の教師のことを僕は思い出していた。僕の通っていた高校は県立の進学校で、良くも悪くも勉強ファーストの世界だった。僕のような勉強の出来ない、愛想も良くない生徒が教師の皆さまから良く思われることはほとんどない。こんなことがあった。生物のテスト。どうしても埋め