「未来はお前が考えろ。俺は今を生きる」この義父の格好良すぎる言葉が日に日に重圧になってきている。難航する転職活動の一方で妻の実家における職人修行は継続中。妻の実家は江戸時代からの由緒あるハコ職人なのである。安全策を講じるつもりで、転職とハコ職を両天秤にかけるような脆弱な精神がダメなのはわかってる。しかし、義父とそれほど濃厚でない時間を過ごし、職人の仕事ぶりを見れば見るほど転職とハコ職を両端に置いた僕の精神天秤はぐらぐらと揺れるばかりなのも事実。 誤解を恐れながら言えば職人とは雰囲気商売である。雰囲気商売と丁稚奉公身分の僕が言ったら失礼極まりないだろうがこれはれっきとしたハコ職である義父の言葉。義父によれば、職人にとって大事なのは技術とそれを支える精神。次に雰囲気。義父が、時折、手を止め眉間に皺を寄せ溜め息をついたり、突然、虚空を凝視した後に静かに瞼をとじ目頭を抑えながらプルプル震えたりする