31歳の秋、わたしは手ひどい失恋を経験した。そして一冊のzineを作った。それが物語の始まり。不思議なことに、そのzineを読んだ人たちは、今度は自分の番とでも言うように、失恋や過去の経験についてわたしに聞かせてくれた。そしてその語りべの多くは男たち(He)だった。彼らの話はどうしようもなくて、ロマンチックで、そして可愛く愛しかった。 誰かを好きになって味わった痛みや、忘れられない彼女の言葉、しぐさ、風景……。心のなかにしまいこんでいた彼女のことを、彼らは優しく話してくれた。この世界にはなんてたくさんの素敵な物語が繰り広げられているんだろう! そしてその物語がわたしの心の傷を、ほんの少しずつ癒やしていくのを感じていた。 みんなみんな恋をして、失恋をしてきたんだ。 彼らが彼女たちについて語るとき。そこにはわたしの知らない「彼」がいた。 目の前に座り、話し続ける「彼」を見つめながら、わたしはふ