コロナ・ウィルスが日本で猛威を振るい始めた二〇二〇年の三月初めに、この作品を書き始め、三年近くかけて完成させた。その間ほとんど外出することもなく、長期旅行をすることもなく、そのかなり異様な、緊張を強いられる環境下で、日々この小説をこつこつと書き続けていた。まるで〈夢読み〉が図書館で〈古い夢〉を読むみたいに。そのような状況は何かを意味するかもしれないし、何も意味しないかもしれない。しかしたぶん何かは意味しているはずだ。そのことを肌身で実感している。 村 上 春 樹
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