Sがセガサターンをくれるというので、荻窪までとりに行った。Sの家に行くのは2回目だったけれど、大通りを左にまっすぐ行ってトンカツ屋(牛丼だったかもしれない)の角を右、という説明どおりに路地を入ると、すぐにSのオレンジのバイクが見つかった。 「あれも売り先は決まってるんだ」とSは言った。まだ埼玉に住んでいた頃、買ったばかりのそのバイクに触って怒られたのを思い出す。歩いて5分のフォルクスへ行くのにも、Sはひとりでバイクに乗って行った。「それなら乗せてくれればいいのに」というTの言葉に「どっちかだけ乗せるのは不公平でしょお」と抜け切らない名古屋なまりでへらへらと笑っていたのも懐かしい。 本気なんだかよくわからない笑顔は相変わらずだったものの、Sの部屋は様変わりしていた。家具は全てなくなり、紙袋に入ったセガサターンと、スーツケースひとつ、後はいくつかの空き缶が部屋の隅に並んでいるくらいだった。はじ