「今日、『無知の知ノート』というコラム記事を読んだの」 と、ミルクコーヒーを作っているハヤさんに話しかけた。 私はこの頃、夕食後にコーヒーを飲むと寝付きが良くない。そこでハヤさんが、普通のコーヒーから変えてくれたのだ。 「無知の知というと、ソクラテスですよね。知らないと自覚することが、真の知へ向かう出発点だといいますね」 「そうそう、何かを知るという楽しみは、一生のあいだ尽きないってことでしょ?」 ハヤさんは少し首をかしげて、カップにミルクコーヒーを注ぎ分けた。受け取ってお礼を言い、飲み頃の温度になるのを待ちながら、話を続ける。 「読んだのは、元素についての記事だったの。人の血の一滴には、宇宙に存在する元素の大半が含まれているんですって。人体は小宇宙なのね。体内と海水に多く含まれる元素も、すごく似かよっているそうよ。だけど不思議なことに、体重1kgあたり10gを占める多量元素なのに、海水に