まさりんです。 novelcluster.hatenablog.jp 今回も「第九回短篇小説の集い」に出品します。ゼロ助さんお願いします。 「会社をやめた日のこと」 その日ケンジは退職届を叩きつけた、となればカッコイイのだが実際は違った。一番採光の良い、窓を背に鎮座する課長席の前で、恭しく両手で退職届を差し上げた。まるで卒業証書を押し頂くように。書類を書いていたオールバックの頭が上がり、角のない弁当箱のように四角い顔と黄色い四角い縁の眼鏡が見えた。 「良いんだな。お前の十数年がムダになるぞ」と最後になる慰留があった。眼鏡のフレームの中央を、人差し指の横で押し上げた。脂性のためかずり落ちた眼鏡を頻繁に押し上げる癖がある。ケンジが慰留に反応する暇もなく、手書きで『退職届』と書かれた封書を、課長は事務机の一番上の引き出しに収めた。その字になにか反応するかと思いきや、なにも触れないことに面食らった