最初に告白する。 わたしは怠惰な読み手で、村上春樹をずっと「いつか読むリスト」に入れたままにしていた。村上春樹はおそらく新刊が出れば日本で一番話題になる作家だ。ハルキストと呼ばれる熱烈なファンが、新刊発売時には徹夜で並ぶ。 翻訳の、それもSFやミステリーやファンタジーという、どちらかというとマイナージャンルを好むわたしからすると、直視してはいけない太陽のような存在だった。太陽は何もしなくても輝いている、だったらわたしは太陽に隠れてしまうかもしれない、小さな、でも美しい星があることを伝える側に回ろう、と思っていた。 それがなぜ『夏帆─The Tale of KAHO─』に限って手を伸ばしたのか。これだけキャリアの長い、そして様々な作品を書いてきた作者の、初の女性主人公(長編では、単独では、といろいろ但し書きがつくが)という点が気になった。 主人公夏帆は二〇代の絵本作家。第一章、知人の紹介で出

