「文体」というものを、どうも甘く見ていたようだ。よほどのマニアでもない限り文体なんてものに興味を抱くことはない。文体なんて云々しているヒマがあったら一冊でも多くの小説を読んだ方がいい。そう思っている読者に一喝を与え、目から鱗をぼろぼろ落とすのが本書である。 かっこいい文章を書かんがために本書を読む人はちょっとがっかりするかも知れない。しかし、本を読む人、それも「練達な読書人というには自分はちょっとなぁ」と思っている人が読むとこの上なく楽しいし、なんと役にも立つ。文体の本なのにプラクティカルなのだ。ちょっとびっくりだ。 いや、いや。プラクティカルどころか本書を読んだあとでは世界の見方や、あるいは生き方までも変わってしまう人もいるだろう。これ、大げさではなくて本当なんです。 「私たちは命を削って文章を読み書きしている」と著者は書く。有限な、そして貴重な人生の時間の一部を削って、私たちは文章を書
![『文体の科学』 山本貴光 | 新潮社](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/a00cc97bcbf27207c837b5cf7e24986ff8335e1a/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.shinchosha.co.jp%2Fimages_v2%2Fbook%2Fcover%2F336771%2F336771_xl.jpg)