たとえば、高速道路に「たまたま」飛び出した人をはねて死なせてしまったとする。ドライバーは「注意して運転していれば避けられたはず」として、過失の度合いが図られる。 あるいは、通勤中、「たまたま」通り魔に襲われたとする。「過失」を無理やり探すなら、その道を選んでしまったことになるのだろうか。 この「たまたま」が厄介だ。 それまでの善行・悪行に関係なく、「たまたま」悪い目に遭う。悪い結果になっていないのは、偶然に過ぎないのに、結果が「たまたま」悪ければ、悪い原因が遡及される。 理想の世界では、善人には報酬が、悪人には報復が与えられる。災厄に見舞われた人には埋め合わせとする幸福が与えられる。 だが、現実は違う。善悪と幸不幸が同期しない。現実は、むしろ運に左右される。そのため、善悪を語る場から、運を排除しようとする。 宗教や神話は、「神意」や「天命」と呼ばれる神の意志=運命を取り入れ、前世や来世の因
2003年、ヒトゲノムの解読が完了し、科学は歴史的な一歩を踏み出した。それから6年後の2009年、今度は医療において大きな一歩が踏み出される。患者個人のゲノムを解析し、その結果にもとづいて診断・治療を行うという「パーソナルゲノム医療」が産声を上げたのだ。本書は、医師と研究者、そして患者と家族に焦点を当てながら、その新たな医療が生まれるまでを描いたドキュメンタリーである。 先に言ってしまうと、本書がことさら魅力的なのは、それが豊かな科学的知識を授けてくれるからではない。そうではなく、登場人物たちの悲喜こもごもを濃密な筆致で描ききっていることこそが、本書の際立った魅力であろう。その点において、ピューリッツァー賞も受賞しているこのジャーナリストのコンビはやはり強力だ。事実を淡々と積み上げていく記述ながら、最後に読者をアッと言わせるだけの力がある。 舞台はアメリカのウィスコンシン州。5歳になるニコ
私は、1年のうち少なくとも3ヶ月は、海外で恐竜化石調査を行っている。主な調査地は、モンゴル・アラスカ・カナダ・中国、そして日本である。2017年4月には、北海道むかわ町穂別から発見された日本で最初の大型恐竜の全身骨格について、発表をした。全長8メートルのハドロサウルス科という恐竜で、全身の8割以上が揃っている、世紀の大発見だ。私の研究は、それだけではない。恐竜から鳥類への進化の過程についても研究をしている。爬虫類的な恐竜から、鳥型の恐竜へと進化していくそのプロセスに注目しているのだ。脳の進化、消化器官の進化、翼の進化など、「恐竜の鳥化」というものをキャリアのテーマとしている。私だけではなく、世界中の恐竜研究者の成果によって、最近では「鳥は恐竜である」ということが定着してきた。つまり、世界中の鳥類研究者は、“恐竜研究者”ということになる。 * 最初に『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』が出版され
Twitterで匿名の質問(メッセージ)を受け付けて回答するサービスの一つに「マシュマロ」というものがあります。 ここ1ヶ月間、回答をしていたのですが、書物を紹介することが多くて、数えてみると100冊を越えていました。 検索の便宜をかんがえて、まとめてみます。 なお、配列は概ね日本十進分類の順になっています。 000 【総記】 100 【哲学】 200 【歴史】 300 【社会科学】 400 【自然科学】 500 【工学】 600 【産業】 700 【芸術】 800 【言語】 900 【文学】 000 【総記】 「頭が良くなる」というのはLisperの自虐ギャグなので無視して下さい。お勧め本は『Land of Lisp』です。アウトレイジなLisperノリとレトロ・ゲームに酔ううちにLispが身につきます。#マシュマロを投げ合おう https://t.co/lFQLu8QvFo p
『世界からバナナがなくなるまえに 食糧危機に立ち向かう科学者たち』 ロペスのハチ、チョコレート・テロ、現代版ノアの箱舟 バナナがなくなってしまうだって!? 多くの人にとっては寝耳に水であろうが、しかしこの話、けっしてありえないことではないようである。 現在、人々が口にしているバナナは、その大半が単一の品種、すなわちキャベンディッシュバナナである。そしてそのバナナには、遺伝的な多様性がまったくない。というのも、キャベンディッシュは種子がなく、株分け(新芽を移植すること)をとおして栽培されるからである。それゆえ、「キャベンディッシュバナナはすべて遺伝的に同一であり、スーパーで買うバナナのどれもが、隣に並ぶバナナのクローンなのである」。 だがよく知られているように、そうした遺伝的多様性の低い生物は、天敵などの影響をもろに受けやすい。実際、かつて人々が口にしていたバナナ(グロスミッチェル種)は、「
書店内でいやでも目を引く、虫取り網をかまえこちらを凝視する全身緑色のバッタ男の表紙。キワモノ臭全開の本書だが、この著者はれっきとした博士、それも、世界の第一線で活躍する「バッタ博士」である。本書はバッタ博士こと前野ウルド浩太郎博士が人生を賭けてバッタの本場アフリカに乗り込み、そこで繰り広げた死闘を余すことなく綴った渾身の一冊だ。 「死闘」と書くと「また大袈裟な」と思われるかもしれない。だが著者が経験したのは、まぎれもない死闘だ。あやうく地雷の埋まった地帯に足を踏み入れそうになったり、夜中に砂漠の真ん中で迷子になったり、「刺されると死ぬことのある」サソリに実際に刺されたりと、デンジャーのオンパレードである。 なぜ、そこまでの危険を冒さねばならなかったのか。油田を掘り当てるためでも、埋蔵金を発掘するためでもない。そう。すべては「バッタのため」である。 昆虫学者に対する世間のイメージは「虫が好き
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