もうやり尽くした。でも… 先日、雑誌の企画で、夫の三浦朱門さんに先立たれた作家の曽野綾子さんと対談した。 「ふと青い空に夫の視線を感じることや、夫の声が聞こえると思うときがあるんです」 曽野さんはそう言っていた。私も、折に触れて沙知代の顔や、言葉を思い出す。 夫婦って本当に何なのだろう。当然、二人そろって初めて夫婦なわけだが、独りになって、そんなことを考える。 沙知代が亡くなる日、昼頃に私が目を覚ますと、彼女が言った。 「左手を出して。手を握って」 今までの人生、彼女からそんなふうに言われたことは一度もなかった。私は黙って、そっと手首を握ってやった。 あのとき、沙知代は何を思っていたのか。いまとなってはもうわからない。 私たちは性格も、考え方も正反対だった。けれども、長く一緒に生きるうちに、すべてが溶け合っていた。私たちは二人で一人だった。 そんな「身体の半分」を失ってもうすぐ1年になる。