薄暗い空から視線を下へ移すと、水平線の手前にマッチ箱が二つ並んでいるように見えた。 「来たぞー」 日本銀行那覇支店の初代次長を務めた堀内好訓(よしくに)さん(94)は、那覇市の天久台にあった日銀家族寮4階から階段を駆け降り、那覇軍港へ向かった。 1972年5月2日午前6時過ぎに到着した海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と「しれとこ」を迎え入れるためだ。 13日後に日本復帰する沖縄で通貨をドルから円に切り替える必要があった。2隻は東京を出発し、540億円の紙幣と硬貨を運んできた。総重量320トンで、161個のコンテナに詰められていた。 堀内さんは前年4月に支店開設準備室に配属され、琉球政府や警察、米軍、地元の金融機関などと調整を進めてきた。 那覇軍港では外部から見えないよう2段に重ねた空のコンテナで目隠し。カービン銃で武装した警察官400人が警備に当たった。 那覇市松山の支店まで約1・5キロで、