タイ出身の若手小説家による短編集。とてもよかったです! 鮮やかなイメージの残る短編ばかりで、読み終えてみると、つい『ダブリン市民』(ジェイムズ・ジョイス)を連想してしまうほどにドラマティックな印象がありました。すべてタイを舞台にした物語であり、われわれが抱きがちなリゾート幻想を打ち砕きつつ、それでも残るタイという国の唯一性をストーリーに取り入れたユニークな小説になっていたとおもいます。猥雑さもありながら、うつくしくエネルギーに満ちた短編集でした。 『観光』は、誰の人生にも必ず存在する<区切り>の瞬間、そのドラマ性を描いた短編集と呼ぶことができるとおもう。<区切り>はわれわれの日々に確実にあり、さほど大げさではなくても、その線をまたいでしまえばもう後戻りはできないというひとつの分岐点になっている。学校を卒業すること。就職すること。引っ越しをすることや、両親の病の報を受け取ること。それはまるで