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  • モオパッサン 秋田滋訳 ある自殺者の手記

    水曜日から木曜日にかけての深更(しんこう)、某街四十番地所在の家屋に住む者は連続的に二発放たれた銃声に夢を破られた。銃声の聞えたのは何某氏の部屋だった。ドアを開けてみると借家人の某氏は、われと我が生命(いのち)を断った拳銃を握ったまま全身あけに染って打倒れていた。 某氏(五七)はかなり楽な生活(くらし)をしていた人で、幸福であるために必要であるものはすべて具(そなわ)っていたのである。何が氏をしてかかる不幸な決意をなすに到らしめたのか、原因は全く不明である。 何不足なく幸福に日を送っているこうした人々を駆って、われと我が命を断たしめるのは、いかなる深刻な懊悩(おうのう)、いかなる精神的苦痛、傍目(はため)には知れぬ失意、劇(はげ)しい苦悶がその動機となっての結果であろうか? こうした場合に世間ではよく恋愛関係の悲劇を探したり想像してみたりする。あるいはまた、その自殺を何か金銭上の失敗の結果

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