■濃厚な魔術的リアリズムへ まずは短編集である『十二の遍歴の物語』から、「光は水のよう」を読むことをお薦めする。なぜなら、最も短くて読みやすくて、ガルシア=マルケスらしさもほどよく盛り込まれているから。私が偏愛する掌篇(しょうへん)の一つだが、今読むと、津波の記憶が重なって、平静ではいられない。 続いて収録されている「雪の上に落ちたお前の血の跡」。この切なすぎるラブストーリーに夢中になった人は、すぐさま大恋愛長篇『コレラの時代の愛』(木村栄一訳、新潮社・3240円)に取りかかるべし。 『十二の~』を読了すると、「確かに幻想的ではあるけれど、魔術的リアリズムと言われるような濃厚なものではないな」と感じるかもしれない。マルケスにしては都会的すぎるのだ。 じつはこの作品群は、新聞のコラムとして書きためられたもので、本格的な小説ではない。だが、それはマルケスの原点でもある。大学を中退して新聞記者と