新聞連載時から大きな反響を呼んだ小説『国宝』(朝日新聞出版)が上下巻の単行本で刊行された。任侠の一門に生まれながら、歌舞伎の世界に飛びこみ、稀代の女形になった男の数奇な人生を追った大河小説は、作家生活20周年を迎える吉田修一さんにとっても、新たな冒険に満ちた一作だった。旧知のライターで大の歌舞伎好きでもある瀧晴巳さんと小説の舞台裏、歌舞伎の舞台裏を語りつくす。 鴈治郎さんに黒衣をつくってもらって、舞台裏から歌舞伎を見ることができたのは、大きかったですね ――吉田さんとは、歌舞伎座でバッタリお会いしたことがあるんですよね。あれは2015年12月、折しも『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』がかかっていた時でした。あの時、すでに『国宝』ための取材をされていたんでしょうか。 そうでしたね。それまで歌舞伎は「観たことがある」くらいだったんですよ。それがDVDを観たり、実際に劇場に観にいくことを
第156回芥川賞は、山下澄人さん(50)の「しんせかい」(新潮7月号)に決まった。19日、選考委員の吉田修一さんが会見に臨み、選考経過について説明した。 ◇ 最初の投票の段階で、山下さんの「しんせかい」が一番高い点数を取りまして、宮内悠介さんの「カブールの園」(文学界10月号)と2作で争う形になり、最終的に山下さんの作品に決まりました。 -山下さんの受賞理由は? いくつかありますが、まず王道の青春小説として面白かった、という感想がありました。4回目の候補作なんで、前と比べてというのはあるんですが、今回のは少しこれまでと違う作品になっていた。 主人公は【谷】というところにいて、青春時代の2年間を過ごすんですが、主人公が自分の心を直視しないがゆえにコミュニケーションがうまくいかない、というあたりがリアリティーがあった、という好意的な意見がありました。逆に、そういうふうな描かれ方なので全く葛藤が
吉田修一 1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。2002年に「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞。07年『悪人』で第61回毎日出版文化賞、第34回大佛次郎賞、10年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞を受賞。近著に『路(ルウ)』『愛に乱暴』『怒り』『森は知っている』『作家と一日』など。また映画化された作品多数。最新刊は、『週刊文春』に連載された『橋を渡る』。 吉田 設定は同じですけれど、世之介と自分は全然違いますしね。やっぱり自分ではない何かを書くという意味では同じようにチャレンジです。ただ、『世之介』に関しては、本当にその世界観が近しいので、他の作品よりも素で書けるんですよね。 ――人なつこくてお気楽な世之介のほうが、普段の吉田さんに近いわけです。でもこれも実際にあった事故にもとづいたエピソードが出てきて、胸をつかまれました。あの事故は心に引っかかっていた
吉田修一 1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。2002年に「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞。07年『悪人』で第61回毎日出版文化賞、第34回大佛次郎賞、10年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞を受賞。近著に『路(ルウ)』『愛に乱暴』『怒り』『森は知っている』『作家と一日』など。また映画化された作品多数。最新刊は、『週刊文春』に連載された『橋を渡る』。 ――新作『橋を渡る』(2016年文藝春秋刊)、たいへん面白く拝読しました。2014年の東京に暮らす3組の無関係の男女の日常が、不思議な連なりをみせていく。『週刊文春』で連載がスタートしたのが2014年なんですね。 吉田 連載の話をいただいた時、4部構成とすることに決めたんです。第1章で町を書き、第2章で東京を書き、第3章で日本を書いて、第4章で世界を書こうと。でも、町は書けるけれど、東京がなかなか書けな
(文藝春秋・1944円) 今はよりよき未来なのか 東京都議会で発言していた女性議員に向けて、セクハラと見なされる野次(やじ)を飛ばした議員がいる。最初の野次の発言者は特定されたが、その次の発言者はだれだかわからない。近くで聞いた人も、発言した本人も、名乗り出ない。二番目の野次は、もみ消され、結果的になかったことになる。二〇一四年に実際に起きたことが、この小説で幾度か語られる。 四章から成る小説の舞台も語り手も章ごとに異なる。三章までは、どこにでもいる夫婦であり家族でありカップルが描かれる。セクハラ野次をはじめとして、登場人物たちの周囲をさまざまなニュースが流れていく。バンコクで代理出産されたとおぼしき九人の赤ん坊が保護される。女性参院議員が若いスポーツ選手にキスを強要。香港での学生たちによる抗議デモ。どのニュースも見聞きした覚えが私にもあり、自分も「どこにでもいる」ひ… この記事は有料記事
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