任俠の一門に生まれながら、この世ならざる美貌を持った喜久雄。上方歌舞伎の名門の嫡男として生まれ育った俊介。二人の若き才能は、一門の芸と血統を守り抜こうと舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜けていくが――。長崎から大阪、そして高度成長後の東京へ舞台を移しながら、血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り、数多の歓喜と絶望が、役者たちの芸道に陰影を与え、二人の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。 鴈治郎さんに黒衣をつくってもらって、舞台裏から歌舞伎を見ることができたのは、大きかったですね ――吉田さんとは、歌舞伎座でバッタリお会いしたことがあるんですよね。あれは2015年12月、折しも『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』がかかっていた時でした。あの時、すでに『国宝』ための取材をされていたんでしょうか。 そうでしたね。それまで歌舞伎は「観たことがある」くらいだった