短歌はプロレスに似ている。たとえば善玉のレスラーが、「悪役レスラーに凶器で膝をめった打ちにされ、病院送りになった」とする。実際にはこれは「慢性的に痛めていた膝を手術するため、予定通り入院した」のであり、悪役は既に悪かった膝を攻撃して見せたのだ。プロレスにはこのような変換がある。リング上で事件が起こるとき、リング外でも事件によく似た何かが起こっている。ファンは変換前の〈何か〉を想像しながら、リン
![評伝 春日井建 岡嶋憲治著 - 日本経済新聞](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/46da4845540ec28bd7625c6f057ba7db25db3e47/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Farticle-image-ix.nikkei.com%2Fhttps%253A%252F%252Fimgix-proxy.n8s.jp%252FDSXKZO0657630027082016MY6001-6.jpg%3Fixlib%3Djs-3.8.0%26auto%3Dformat%252Ccompress%26fit%3Dcrop%26bg%3DFFFFFF%26w%3D1200%26h%3D630%26s%3De5e0448b0427a1f00b28fb0ba6497b5b)
一九九〇年の春の夜のこと。ベッドでぼんやりしていたら、不意に気がついた。あと二年で二十代が終わる。そして、愕然(がくぜん)とした。このままでは何もしないまま、三十歳になってしまう。いや、もしかしたら、自分は一生何もしないんじゃないか。まさか。でも。考え出すと、不安でたまらない。 私は会社員だった。本当は物書きになりたかったけど、働かないとお金が貰(もら)えない。通勤は片道一時間四十五分。毎日終電で帰って、眠るまでの間に三十分くらい短歌や文章を書くという生活だった。 そして、ずっと待っていたのだ。或(あ)る日、自分のもとに届くはずの一通の手紙を、一本の電話を。 「あなたには才能がある。前からすごいと思っていました。本を出版しませんか」 でも、待っても待ってもどこからも連絡が来ない。ポストに入ってるのはチラシだけ。電話は鳴らない。おかしい。どこかで誰かが必ず見てる、はずじゃなかったのか。見てる
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