そうです。賀川少尉を殺したのは私です。 もちろんあなたの倫理観においては許されることではないでしょう。ですが少しだけ立場を逆にして考えてみてください。二度と訪れない好機が巡ってきて、それでも行動を起こさずにいられるものでしょうか。 戦争ミステリ『いくさの底』(古処誠二/KADOKAWA)は衝撃的なモノローグから幕を開ける。台詞の主が誰かは最後まで分からない。ただし、人間の倫理観を揺さぶる問いかけは、一筋縄ではいかない本作の展開を示唆している。読者は戦時中のビルマで起こる事件を通して、善悪について考えさせられるだろう。 本作の舞台は第二次世界大戦中期、ビルマである。青年将校の賀川少尉が率いる一隊は山奥の村に警備兵として派遣された。当時のビルマは日本軍の戡定後であり、一隊は中国軍の脅威から村を守る役目があった。しかし、決して一隊は友好的に迎え入れられてはいないと通訳の依井は悟る。村長こそ「賀川