『たった一度のポールポジション』(講談社刊)の裏表紙より ピットでトオルを待つメットとスーツ *誘惑の章/群がるサーキットGAL。クラッシュ、リタイアの試練。 5月の鈴鹿JPSレースは、高橋徹の話題でもちきりであった。公式予選でコースレコードを叩き出したからだ。1分56秒46。そのころ絶好調の松本恵二はうめいた。 「予選用タイヤで57秒10。こらいけると思うたら、トオルが簡単に同じタイヤで56秒や。まいったネ。本番ではコーナーを深く突っ込んでからブレーキングでブロックしてやるか!」 これほどベテラン勢の心胆を寒からしめたヤングタイガーがほかにいただろうか。中嶋悟にしても、決勝レースで徹を背後から脅かしたものの、シケインで接近しすぎ、カウルを飛ばしてしまう始末。 が、夏場に入ると徹の勢いがとまった。7月のゴールデントロフィーはスプーンでクラッシュ。ピットにたどりついたときには完全な脱水状態に