たった1カ月で事態がここまで様変わりするとは。9月4日夜、アンゲラ・メルケル独首相は10年前に就任して以来、最も劇的な判断を下した。欧州の難民規則を停止し、ハンガリーで足止めを食っている数万人の難民に対し、オーストリア経由でドイツに入国することを許可したのだ。この人道的な行動は、当時のセンチメントに適うものだった。本誌(エコノミスト誌)が印刷に回された時点では、メルケル首相はノーベル平和賞の候補に上がっていた。 しかしながら今、利他主義に基づいたメルケル首相のこの判断は、ドイツ国内で激しい批判を引き起こしている。これまで鉄壁と思われた同首相の人気に陰りが生じかねない雲行きだ。同首相はいつになく使命感を前面に出し、難民の権利に「上限は設けない」と繰り返した。これに対しヨアヒム・ガウク大統領 は「どの程度が上限なのかまだ検討していないが、難民受入れ能力には限界がある」と牽制した。同大統領は通常