貧乏物語 序 是物語は、最初余が、大正五年九月十一日より同年十二月二十六日に亘り、断續して大阪朝日新聞に載せて貰つた其儘のものである。今之を一册子に纏めて公にせんとするに當り、余は幾度か之が訂正増補を企てたれども、筆を入るれば入るゝほど統一が破れて襤褸が出る感じがするので、一二文字の末を改めた外は、一旦加筆した部分も凡て取消して、只各項の下へ掲載された新聞紙の月日を記入するに止めて置いた。但し貧乏線を論ずるの因に額田博士の著書を批評した一節は、其後同博士の説明を聴くに及び、余にも誤解ありしを免れずと信ずるに至りしが故に、之を削除して已むなく其跡へ他の記事を填充し、又英國の食事公給條例のことを述べし項下には、事の序と思つて、此條例の全文を追加して置いた。只此二個所が主なる加筆であるが、併し其でさへ、こうして印刷して見ると、如何にも餘計な瘤が出來たやうで、無駄なことをしたものだと後悔して居る次