これ撒いて、私のまわりに。彼女はそう言って私に小さい四角い紙包みを手渡した。私たちはターミナル駅の真上のビルディングに入った店で待ち合わせをして、軽くおしゃべりするつもりでいた。それなのに彼女は非日常的な飾りけのない黒い服を着てあらわれた。それは完璧な黒さだった。隙のない襟元、膝下数センチの裾、布張りの小さい鞄、匿名的なかたちのローヒールシューズ。 あの、こんなことしてて、いいの。席に着いてからそう訊くと彼女は眉を上げ、片手を上げてジントニックをくださいと注文する。いや、不幸があったみたいだから、みたいっていうか、そうなんだよね、だったら、私と会うのなんか、いいのに。私がそう言うと彼女は、気が滅入るから少し話してくれると助かる、と言った。死んだのは父なの。 彼女は早くに家族と連絡を絶って働きながら大学に行き、職を得た。二年前に住所を変えたとき、ちかごろは引っ越しが楽だよと言っていた。不動産
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