こんな美人が職場にいたら大変でしょうと、隣のテーブルの知らない男が言った。下卑た声だった。私たちはどちらからともなく黙ってそれぞれの手元のグラスを引き寄せた。その中身だけがこの世で唯一の自分たちの味方であるかのように。 うまくあしらう女の声と、それをまたうまくあしらう複数の声が聞こえて、それから、そうですねえ履歴書の写真みたときはそう思いましたねえと、ひときわ大きな別の男の声が耳に入ってきた。美人が来るんだと思ってうれしかったなあ、でもまああれですよね、しゃべっちゃうとこのひと美人が台無しだし、一緒に働いてたらどうでもよくなっちゃうじゃないですかそんなの。 私はほっと肩の力を抜いた。それから話題にされている女をちらりと盗み見た。痛々しいほど若くて、かなしいくらいきれいな顔立ちをした女だった。よく訓練された筋肉でもって目を三日月のかたちに整え、適切な角度で桜色のくちびるを引き上げていた。まぶ
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