佐野 亨 今年(2009年)は、生誕100年を迎える大物が多い。太宰治、大岡昇平、松本清張、花田清輝……。映画界に目を向ければ、山中貞雄、田中絹代、佐分利信、小澤栄太郎。批評家では、野口久光や小森和子といった人たちがいる。なかでも、一般的に最も知名度の高いひとりが、淀川長治ではないだろうか。 ふつうの人にとって、淀川長治は「日曜洋画劇場」の解説者、番組の最初と最後に登場し、「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」と挨拶するニギニギおじさんとして知られている(もっともいまの若者には、それすらも知らない人が増えてきているのかもしれないが)。もうすこし映画にくわしい人なら、チャップリンや黒澤明との交遊を思い浮かべたり、「私はまだかつて、嫌いな人に会ったことがない」という氏の座右の銘(もとはウィル・ロジャースの言葉である)を引き合いに出したりして、映画愛の人・淀川長治をなつかしく回想するかもしれない。そし