2009年10月31日11:12 カテゴリ本 廣松渉の哲学 70年安保のころの学生運動が残した知的な遺産はほとんどないが、当時の教祖的な存在だった廣松渉だけは、戦後の日本を代表する哲学者として歴史に残るだろう。当時、彼の講義には、他大学からも多くの聴講生がやってきて、いつも500人の大教室に立ち見が出た。その講義も、原稿なしで古今の文献を詳細に引用する濃密なもので、1回の授業で本1冊分の内容があった。 本書は、廣松のデビュー作(卒業論文!)である『世界の共同主観的存在構造』(第1章)を中心にして、彼の代表的な哲学論文を集めたものだ。彼のわかりやすい講義とは違って、文章は一見むずかしい漢字が多くて読みにくいが、彼の認識論の基本である「四肢構造」はきわめて単純で、いわばそれを公理系として展開する数学の論文のように書かれているので、基本的な図式が頭に入ると意外にわかりやすい。 廣松はマルクスの研