くだらない雑用で頭が窒息状態になったときは、本書のような人類の数千年の営みに思いをはせる本を読むのが精神衛生にいいかもしれない。本書は20世紀最大の知的巨人の30年以上にわたる講義の内容を要約したもので、その膨大な業績を一望するには便利だが、それを400ページ足らずの訳本に圧縮することは不可能なので、彼の著書を読んでいない人には難解かもしれない。 全体として描かれているのは、冷たい社会の人々が謎に満ちた世界を理解し、社会の存在する意味を見出す努力の跡である。圧倒的に巨大な自然の闇の中で微小な存在でしかない人間が、そのささやかな秩序を守るためにつむいできた神話や親族構造が、詳細に分析される。それを通じて見えてくるのは、荒々しく不確実な自然の中で、人間の築いた文化がいかに無力で壊れやすいものかということだ。 しかし人類は、いつからかこういう静的な秩序を守るのをやめ、自然を征服して不確実性を