日本語の「美術」という言葉には、「美」という文字が入っています。そのためというわけでもないんでしょうが、私たちは絵画や彫刻作品などを、どうしても「美しいもの」を表現していると考えがちです。 ところが、諸々の作品を見直してみると、絵画や彫刻が必ずしも「美しいもの」を表現してきたわけではないということに、すぐ気が付きます。というか、「美しい」って何なんでしょう。平安時代の美人と現代の美人では「美」の基準が異なるみたいな話が有名なように、「美」の概念は常に一定ではありません。それぞれの時代の状況や他国の文化を反映しながら、「美」の概念はどんどん入れ替わっていきます。 では、「美」の対極である「醜」は? それを解き明かしてくれるのが、知の巨匠ウンベルト・エーコの『醜の歴史』です。といっても、全世界・全人種の「醜」の概念を網羅するのはさすがのウンベルト・エーコも手に負えなかったようで、この本でたどっ