仕事の末期はいつも綱渡りで(期日までにちゃんと出来るか)、他になにかする余裕がなくなってしまう。そのせいで家と往復する電車の中くらいはどうしても違うことを考えたくなり、全然別の本を読む。 といっても、心が忙しいと、たとえば小説などは集中して読めない。じゃあ何を読もうか。出がけに本棚から急いで探してかばんに入れる。今回は野崎昭弘『不完全性定理―数学的体系のあゆみ』(ちくま学芸文庫)だった。 なんでそんなものをという感じだが、このまったく理に偏ったはずのテーマに、情や個性がどことなく浮かんできて、ふしぎと気持ちが落ち着くのだ。これに続けて出た『数学的センス』(同著者・同文庫)も同様。やはり文章には人格というものが現れるのか。カバーにある野崎さんの顔からは永井荷風の顔がどことなく浮かんできて、これまた吉。 不完全性定理そのものの説明は短い。肝どころが分かっている人じゃないと肝どころは分からないの